第12章 絶望の牢獄

闇の中で開かれる契約の鍵

by 박시룡

死にたいほどつらかった日

クリスチャンだからといって、死にたくなるほどの苦しみを知らないわけではない。
私もそうだった。
ある日、胸の奥でこんな囁きがよぎった。

「もう……自ら命を絶ってしまおうか。」

聖書は自殺を殺人だと言う。
しかし主は、死ぬ覚悟で祈りなさいと教えられ、
そのように叫ぶ者には必ず応えてくださると約束された。

ジョン・バニヤンは『天路歴程』にこう記した。

「主は“疑いの城”の門を開ける不思議な鍵を
信じる者すべてに与えておられる。」


絶望の巨人と疑いの城

クリスチャンと希望(ホープフル)は、穏やかに見える道へ足を踏み入れた。
しかしその道は長く続かなかった。
彼らは深い穴に落ち、もがきながらやっと抜け出したものの、
疲れ果ててその場に倒れ込むように眠ってしまった。

12-1 Castle of Suspicion Dungeon (2022)..jpg 図12-1: 疑いの城の地下牢に囚われたクリスチャンと希望

その時だった。

“絶望の巨人” が現れ、彼らを捕えたのである。

二人は “疑いの城” の地下牢へと連れて行かれた。
湿った冷気が胸を刺し、
光ひとつ差し込まないその牢で、
彼らは数日ものあいだ飢えと痛みに耐えた。

巨人は唸り声を上げて問う。

「お前たちは何者だ! なぜ私の土地に入った!」

クリスチャンは震える声で答えた。

「私たちは巡礼者です。……道に迷いました。」

巨人は黙って彼らを牢の奥深くへ投げ込んだ。
水一滴、パン一切れもない闇の中で、
二人の信仰は少しずつ崩れ落ちていった。

巨人には妻がいた。

12-2 Giants of Despair and Suspicion (2022).jpg 12-2: 絶望の巨人とその妻の疑惑

その名は “疑惑(ディフィデンス)”。

巨人が彼らをどうすべきか尋ねると、
彼女は冷たく言った。

「自ら死にたいと思うまで、
徹底的に打ちのめしてしまいなさい。」


崩れゆく信仰

その夜、クリスチャンは痛みにうめきながら言った。

「兄弟よ、どうすればよいのでしょう……
この苦しみの中で生き続けるより、
いっそ死んだ方がましではありませんか。この牢獄より墓の方が安らかでしょう。」

希望も頭を垂れた。

「私も同じ思いです。
しかし主は『殺してはならない』と言われました。自殺は魂を失う道です。」

二人はもう立つ力も残されていなかった。
ただ、石の床に膝をつき、
夜明けまで泣きながら祈るしかなかった。


契約の鍵

東の空がわずかに白む頃、
クリスチャンは突然叫んだ。

「ああ! 私はなんと愚かだったのか!
逃れる道があるというのに、
この朽ちた牢に閉じこもっていたとは!

私の懐には “契約(プロミス)” という鍵がある。
これは“疑いの城”のすべての錠前を開けられると聞いたではないか!」**

希望は目を輝かせて叫んだ。

「急いでその鍵を取り出しなさい!」

鍵が錠に触れた瞬間――

ガチャリ。

重い扉が開いた。
二人は闇と絶望の牢獄を抜け、
光と希望の道へと歩み出た。


酒の霊との戦い

私にもまた、
“絶望の牢獄”のような日々があった。

それは、父と弟に及んだ“酒の霊”が、
ついに 私の娘にまで襲いかかった時 である。

娘は優しく、賢い子だった。
しかし成人してから、
飲み会に出るたびに酒に飲まれ、意識を失った。
深夜の街をさまよい、
自分の家すら見つけられない夜が何度も続いた。

12-3 A Woman's Drunkenness (2022).jpg 図12-3: 娘は飲み会のたびに酔って家路を見失うことが頻繁になった。

再び押し寄せた闇

四年前、私は娘の手を握りながら、深い淵の縁に立っていた。
その瞳の奥で揺れていた悲しみと混乱、
そして自分自身を憎むような表情を、私は忘れることができない。

私は“父”でありながら、
彼女を救う力すら持たない、ただの無力な人間だった。

その夜、私は生まれて初めて主に問いかけた。

「神さま、なぜ私の娘にこの暗い谷をお許しになったのですか。」

しかし返ってきたのは沈黙だった。
深く、重い沈黙。

そして私は、その沈黙の中で静かにひざまずいた。

12-4 flowers.jpg 図12-4:絶望の牢獄が開く瞬間、幻想の中に娘の家リビングの壁面を飾っていた花が見えた。

絶望の牢獄 ― クリスチャンが倒れたその場所

ジョン・バニヤンは『天路歴程』で
“絶望の巨人”について語っている。

絶望の巨人とは、希望を根こそぎ奪い取り、
人を“絶望の牢獄”へ投げ込む怪物だ。

そこは光の届かぬ場所。
冷たく湿り、
心が砕けていく音がそのまま響くような部屋。

その描写を読むたび、
私は深夜の街角にぽつりと立ち尽くしていた娘の姿が重なった。

酒の手はただの誘惑ではなかった。
それは魂を縛りつける鎖であり、
心を揺さぶり、
思考を崩し、
自尊心を引き裂く、冷たい爪だった。

だから私は確信した。

「これはただの習慣ではない。
これは魂を狙う霊的な戦いだ。」


死ぬ覚悟で捧げた祈り

あの闇が、再び娘のもとへ押し寄せてきた。
その知らせを聞いた日のこと、
私はその場に崩れ落ち、しばらく言葉を失った。

「……なぜ今、もう一度?」

しかし以前と一つだけ違うことがあった。

あの時は“絶望の牢獄”がただ恐ろしかった。
だが今の私は、
その牢を開く鍵をすでに知っている。

祈り。
約束。そして、決してあきらめない愛。

だから私は再び断食し、祈りを始めた。
いつ終わるかは私にもわからない。
ただ、この道を祈りながら歩いていく。

「神さま、もし絶望の巨人が
再び娘の心を叩くのなら、どうか今回も私に“契約の鍵”を握らせてください。」


ペテロの牢獄が開いたように

聖書は語る。
ペテロが牢に捕らえられたとき、
彼の鎖は自ら解け、
門は誰の手も触れずにひとりでに開いた、と。

しかしその奇跡の背後には、
ひとつの事実があった。

教会の切なる祈り。

私は信じている。
娘の心も、
酒の中毒も、
彼女を呑み込もうとする闇も、
いつの日かペテロの鎖のように断ち切られると。

その日が訪れるまで、
私は祈りを止めない。

12-5 The Miracle of the Opening of the Gate and Peter (2023).jpg 図12-5: 玉門が開く奇跡を体験したペテロ

娘へ捧げる静かな告白

愛する娘へ。

この世でいちばん尊いことは、
あなたが生きているというその事実だ。

倒れることもあるだろう。
再び揺らぐこともあるだろう。
時には座り込んでしまうかもしれない。

それでも覚えていてほしい。

お父さんは、あなたを絶対にあきらめない。

そして神さまは、
あなたを一瞬たりとも手放したことがない。

あなたは暗闇を歩いているように感じても、
光はすでにあなたの後ろから寄り添っている。


誰もが入る“絶望の牢獄”

絶望の牢獄には、誰でも落ちる可能性がある。
姿は違っても、名前は似ている。

酒、関係の傷、過去の痛み、失敗、孤独、鬱、
そして人生の重荷……

だがそのどれよりも長く続くものがある。

神の約束。

その約束は、決して閉ざされたまま終わらない。
たとえ絶望の巨人がどれほど私たちを押しつぶそうとしても、
神さまの隠された鍵は、私たち一人ひとりの中にある。

その鍵は時に、
祈りの涙の中で、
愛する者の手の温もりの中で、
あきらめない一歩の中で
静かに輝く。


12-6 말씀이 육신이 되다.jpg 図12-6: 眠る子供がいるその部屋、言葉が肉となって。

絶望の牢獄で輝いた言葉

― 「言葉は肉となりて」

私は娘と孫がいます。
3年前、娘は結婚し、やがて母親となりました。
ある日、1歳半の孫を家に預け、
婿と一緒に夜遅く映画を観に出かけました。
その夜、孫が眠る部屋は、
結婚前、娘が長い間眠っていたまさに同じ部屋でした。

外から見ればよくある光景—
同じ家、同じ部屋、世代が一つ変わっただけ。
しかしもしこの一夜を
時間の流れを超えた神の視点から眺めれば、
その単純な夜は全く別の意味を帯びてきます。

「言葉は肉となり、私たちのうちに住まわれた。」
(ヨハネ1:14)

霊の次元で考えるなら、
神はこの子が生まれることを
初めからご存知だったのではないか。
まるで名前を呼びかけるように、
言葉という“命令”で命を呼び出されたのではないか—
そんな思いが湧いてきます。

翌朝、眠りから目覚めた孫の顔を見て、
私はふと気づきました。
神はすでに小さな奇跡をなさった方だと。
ほんの数年前には、
この子の存在さえ私の想像の外にありました。
しかし神にとって、時間の前も後もないのです。
神は時間を超えておられる方だからです。

だからこそ聖書には、
理性だけでは理解しきれない物語が満ちています。
それは非合理だからではなく、
時間と空間を超えた神の世界が
人間の言葉に翻訳されたものだからでしょう。

使徒パウロは告白しました。

「たとえ外なる人が衰えていっても、
内なる人は日々新たにされている。」
(コリント二4:16)

この言葉も理性だけでは掴みきれません。
しかし私たちの霊がキリストの霊で満たされるとき、
新しい命は始まり、
永遠への扉が開かれます。
パウロは肉体の死さえも
“命に飲み込まれる過程”だと語りました。(コリント二5)

絶望は終わりではなく、
命への門であると
彼は知っていたのです。


現代の人工知能は、
神の領域に近い働きをするかもしれません。
一つの命令で新しい世界を創り、
予測と創造の境界を越えてゆくでしょう。
しかし、どれほど技術が進んでも、
はっきりした違いが残ります。

生命を生み出す奇跡、
絶望の牢獄に囚われた人に
鍵を差し出して扉を開くことができるのは、
ただ神だけだからです。

言葉が肉となって来られた方は
今日もなお
人間の最も深い絶望の中で
静かに語りかけています。

「立ち上がれ。
すでに扉は開かれている。」


巡礼者の告白

私は今ようやくわかる。

絶望とは、
私を終わらせるためではなく、再び立ち上がらせるための谷だったことを。

祈りは薄明かりの星のようでも、
闇を照らすには十分であることを。

そして、

神は今日も
絶望の牢獄の扉を開けておられる。

작가의 이전글第11章 蓄財の町